設計書通りにはいかない? -河道内での調査方法の検討と実践例-

どんな調査方法で行うのがベストなのか?

今回は以前行った川の中での地質調査(ボーリング)について書いてみます。

陸上で行う調査と違い河川や海など、水上で行う地質調査では様々な制約があり、安全対策はもちろんですが、足場の仮設方法や機材の運搬、日々の現場への移動など検討しなければならない事項がかなり多くなります。

しかも、岸からの距離や調査箇所の水深、潮の干満による影響の有無や流れの強さ、降雨時の水位上昇なども考慮した上で、どの方法なら調査が可能か、そしてその中でどの方法が安全面やコスト面、仕事の効率を考えたときに最善の方法なのかを考えなければなりません。

今回の調査ポイントを簡単な図で表してみました。

河川内調査1
河川の中での調査の概要

川幅は約100m、水深は約3m程度といったところでしょうか。場所によってはもう少し深い場所もあるかもしれません。

そしてこの調査でのもう一つのポイントは、『1箇所あたり7~10m程度しか掘らない』ということです。

つまり通常通りにボーリングを行った場合、掘削の作業自体は1~2日で終了し、次のポイントに移動することになるということです。

これが結構重要になるポイントでしたね。

もちろん工期の短縮よりも基本的には安全が第一です。しかし、この場合、安全には十分に配慮することも必要ですが、仮設に掛ける時間やコストに対しても十分に考える必要があるのです。

設計書通りにはいかない場合もある?

今回、設計書においてはどのように計画されていたかというと・・・

河川内調査2
当初の計画では・・・

上図のように、索道(ケーブルクレーン)(外部リンク)を設置して機材等の運搬を行うことになっていました。

索道による運搬は、ダムなど山間部での大きな工事の際によく使われる方法です。

まずこの索道を設置すること自体が大がかりな作業になり、かなりの時間とお金がかかります。

調査においても使用されることはあると思いますが、調査の場合は足場を含めても運ぶ機材が工事に比べると圧倒的に少ないためちょっと割に合いません。

しかも、河川敷に索道の土台を設置すること自体が、河川整備においてどうなのかという意見も出ていました。

ただ設計書がこのようになってたのは、仕方ない部分もあると思います。

そもそも、積算基準書(外部リンク)に記載されている小運搬の方法は、人肩・特装車・モノレール・索道の4種類しかなく、その中からとりあえず設計書を作るとすれば、この索道運搬しかないんですよね。

索道運搬以外の現場内小運搬の方法については、以前の記事でまとめていますので、こちらをご覧ください!

では、どうすればいいのか?ここからが、地質の技術者の力の見せ所でもあります。

様々な方法を検討しその中から当初の設計よりも、低コストながら安全で確実かつ効率的な方法を提案していきます。

実際にはどんな選択肢が?

①スパッド台船

まず、海上や水上で調査を行う際に使用される方法として、『スパッド台船』(外部リンク)があります。

スパッド台船

このスパッド台船は、陸上で組み立て海に浮かべた状態で、船で曳いて調査ポイントまで移動することができます。

そして4本の支柱によって潮の干満等による水位変化の影響を受けない高さまで台船を昇降させることができ、水深も17m以内であれば対応可能です。そのため、陸から距離のある海上でのボーリングの現場ではよく使われる方法になります。

ただ、写真を見ていただければわかるかもしれませんが、スパッド台船用の機材の運搬や組み立て解体は結構大がかりな作業になります。

また、水深が5m以上程度ある場所でしか使用できないため、今回の調査では使用することはできません。

②水上足場+桟橋

次に考えられるのが、水上足場+桟橋の組み合わせによる方法です。

これは通常と同じように単管パイプで作る足場を水の中に設置し、陸との間に人の移動や機材の搬入のための桟橋を造ります。

水上足場の例
水上足場の例
桟橋
桟橋設置の例

この場合も潮の干満の影響による水深の変化を考慮した高さの足場及び桟橋を造る必要があります。

この方法は、陸と調査箇所の距離が比較的近い場合によく用いられます。水上の足場と陸が桟橋でつながっているため、陸と調査箇所との移動は比較的自由度が高いです。

ただ、河川の場合特に、流れの早い場所では設置が困難な場合もあります。また、降雨による急激な水位上昇が想定される場合においての一時的な撤去等が難しくなるため、十分な対策と検討が必要です。

その点から考えると、今回の現場はどちらの岸からでも約50mの桟橋を掛ける必要があり、緊急的な撤去も困難なためやはりこの方法も難しいということになりました。

そこで最終的に採用したのが・・・

③フロート台船

これは名前の通りフロートを使って組み立てた台船のことで、その上にボーリングマシンを設置して調査を行います。フロートとは、魚の養殖場なんかでよく使われているオレンジ色の浮きのことです。

上の①、②との違いは、常に台船つまり足場自体がプカプカと水に浮いている状態だということです。

フロート台船
フロート台船

フロート台船は、スパッド台船ほど運搬や組み立てが大がかりでなく、水深が浅くても対応できます。また、陸で組み立てた後、水上をボートなどを使って曳いて調査ポイントまで移動できるため、桟橋等も必要ありません。

ただ、それ自体が水に浮いている状態なので、安定感は他の2つの方法に比べると劣るため、あまり深く掘るボーリングの際には不向きかもしれません。

また、川の流れで流されないように常に岸とロープ等でつないでおく必要があります。

しかし、1度組み立てると次のポイントまで、川の中をそのまま移動できることや、緊急的な撤去が比較的容易にできることを考えれば今回の調査には1番適している方法であると言えるでしょう。

では、フロート台船での調査の手順を簡単に見てみましょう!

フロート台船を使った調査の例

1.まずは陸でフロート台船を組み立てます。後で出てきますが、ボーリングマシンを載せる際に、クレーンを使用するため、組み立て場所にはある程度の広さと、そこまで進入する道が必要です。

フロート台船の組み立て
フロート台船の組み立て
フロート台船の組み立て2
フロートの上に板材で足場をつくる
吸着マットの設置
油を吸着するマットの設置も忘れずに!

枠組みは単管パイプで作り、下にフロートを並べ、板材を使って足場スペースとマシンの設置場所を造ります。ボーリングマシンからオイル等が落ちないように吸着マットも敷いておきます。

2.組み立てが終わったら、クレーンを使って水に浮かべた後、ボーリングマシンも搬入します。

クレーンを使って川の中へ
クレーンを使って川の中へ
クレーンでの搬入
クレーンでの搬入
ボーリングマシンを設置
ボーリングマシンを設置

3.機材の搬入が終わったら、ボートを使って調査ポイントへ移動し、測量を行いポイントを確認します。

調査ポイントの確認

4.ボーリング作業開始です!

調査中!
調査中!

5.その日の調査が終わったら、近くの台船を係留できる安全な場所まで運び、次のポイントへ備えます。

以上が、簡単ですがフロート台船を使った調査の流れでした。

実際、この調査方法は特定の条件の場合しか使用しないので、あまり使われる方法ではありません。

さらに、不安定な足場での調査であり、また、風や天気の変化にも十分な注意が必要になります。この時もベテランの機長さんに大いに助けられました。まさに長年培われた技術と経験の成せる技といったところでしょうか。

ただ、この調査のあともう一つ大変だったのは、発注者側との歩掛りの話でした。これは本当に時間かかりました。

もちろんフロート台船に対する歩掛なんてありませんし、実際に行った例もおそらくかなり少ないため、どのように積算するかで、担当者と何度も打合せが必要でした。

最後は、設計書にあった索道を使う方法よりは、コストは随分抑えられます。という点でなんとか話は落ち着きました。

やはり、いくつもの選択肢の中から、安全はもちろんですが、現場に合った、そしてできるだけ低コストな方法を選択するというのが大事かもしれませんね。

今回は、河川内でのフロート台船を使ったボーリング調査をご紹介しました。これをきっかけに少しでも地質調査という仕事に興味を持ってくれる方がいてくれると嬉しいです。(・・というより、ほぼそれのみを目指してやってます。笑)

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