ダンピング受注とは? -適切な契約と建設業の将来-

  

そもそもダンピング受注とはなに?

  

 

最近はよく見聞きするようになった『ダンピング』という言葉。関連業界にお勤めの方はご存じかと思いますが、一般の方にはあまり馴染みのない言葉かもしれません。

一般的な『ダンピング』の使われ方としては、採算を無視した低価格で商品を投げ売りすることとして使われます。

   

ここでご紹介するのは、公共工事や調査・設計の業務を受注する際の『ダンピング受注』についてです。

国土交通省の発表から引用しますと、『ダンピング受注』とは、

  

その請負の額によっては公共工事の適切な施工が通常見込まれない契約の締結をいう。

国土交通省「ダンピング対策の適切な活用の徹底」より

   

公共工事などは、一般的に入札によって参加業者の中で1番安い価格で入札した業者が仕事を受注できるという仕組みです。(金額だけでなく実績や提案内容などを総合的に評価して落札者を決めるものもあります。)

  

つまり、1番安い価格を提示すればとりあえず仕事を受注できるため、普通に考えればその金額では会社の利益が出ない、さらには赤字になるような価格で入札し、仕事を受注することを『ダンピング受注』と呼びます。

  

公共工事や業務の予定価格は、その仕事に関わる人の人件費や材料費、使用する機材に係る費用や会社の利益など様々な要素を加味して決められています。

その予定価格を基に、入札に参加する業者は、それぞれどれくらいの金額であれば適切な施工ができるかを検討して入札金額を決めるのが通常です。

  

  

検討会議
適切に施工できる金額は?

  

しかし、他業者との競争に勝つことを優先するあまり、明らかに採算の取れないと思われる金額で入札する場合があるのです。

  

例えば予定価格が1000万円の仕事を、300万円で受注した場合、どんな問題が起こると考えられるでしょうか?

会社は赤字にならないために、人手を掛けず、いわゆる手抜き工事をせざるを得ないかもしれません。

  

  

また材料費も十分に掛けられないので、必要な量を使わなかったり、下請け業者や材料を扱う業者に対して無理を言って安くするように依頼するかもしれません。

このようにして『ダンピング受注』が、手抜き工事や下請けイジメのような状況を作り出す要因となりかねないのです。

  

  

【参考】こんな例もあった。『1円入札』

  

『ダンピング受注』とはまた少し違いますが、東京オリンピック・パラリンピックに関連するものでもニュースになったものがありました。

  

それが、東京オリンピック・パラリンピックにおいて空手競技でしようするマットの納入業者を決める入札の際に、ある会社が『1円』で入札していた、というものでした。

  

【当時のニュース記事】東京五輪・空手競技のマット“1円”で入札-日テレNEWS

  

この1円入札については、その他でも何度も起こっていることのようですね。1円で入札したら、どうしたって赤字なんじゃないの?って思いますよね。

  

当然、それ自体は赤字です。しかしこの場合は、東京五輪という世界的なビッグイベントに関わることによる会社や製品の広告宣伝効果で元を取ることを見込んだうえでの入札なのです。

  

  

東京オリンピック
世界的イベントには大きな広告宣伝効果がある

  

  

オリンピックなどの大きな行事になればなるほど、そこで自社製品が使用されることの宣伝効果は計り知れないものになります。

  

その後の、会社運営においても大きなプラスになるでしょう。1円で入札し、納品する商品の代金を自社で負担することはつまり、広告宣伝費を支払っているようなものだということなんですね。

  

  

建設業自体の将来を脅かすことにも・・

このダンピング受注による弊害は、採算の取れないような金額で仕事を受注することで、手抜き工事の発生や下請け業者へのしわ寄せだけにとどまりません。

  

このように採算の取れない受注が多くなると当然、会社の経営には悪い影響が出ます。そうすると、そこで働く人々の給料や労働環境が悪化してくることは間違いありませんね。

  

同じ内容の仕事をしても得られる金額が少なければ、もちろん会社に入ってくる収入が減りますので、その状態が続けば、人員を削減したり、従業員の給料を減らしたりするほかなくなります。

  

また現場に掛けられるお金が減ると、十分な安全対策を取らないまま仕事をしたり、少ない人数で長時間労働を強いられるなど仕事の成果への影響だけでなく、事故やケガなどのリスクも高まり、従業員の健康への悪影響も出る可能性があります。

  

そしてそのような状況は、建設業やその関連業種に入職を希望する若者へも影響します。

  

  

建設業の未来
若手の入職促進と育成は建設業の未来を左右する

  

  

労働環境や給料の問題の悪化は若者にとっての仕事に対する魅力が薄れることになり、建設業やそれを取り巻く業種の次世代の担い手確保を困難にします。

  

さらに余裕のなくなった企業は、若手技術者の育成に力を入れることもできなくなり、将来的な担い手確保という面において多大なマイナスの影響があると考えられるのです。

  

『ダンピング受注』についてまとめてみましたが、これらの公共工事の契約等の関わる問題は今に始まったものではありません。そして、もちろん今日明日ですぐに解決できるよう単純な問題でもありません。

  

ただこれらの問題を解決する〝目的〟は、はっきりしています。

安全・安心で快適な生活を送るために必要不可欠な建設業とその関連業を衰退させないためです。

   

  

その仕事に携わる企業が余裕をもって経営できるようになり、そこで働く人たちが幸せになり、知識・技術を次世代の人へしっかりと受け継いでいくためです。

今回取り上げた内容も含め、若い人たちに少しでも建設業やその関連業について興味を持ってもらえたらうれしいです。

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